年末年始を迎えるにあたり、家で飲む酒が無くなったので、買いに行った。
前回購入した角瓶1920mlの在庫を確認。
前日酒場でハイボールで一杯飲んで悪くないと思ったジムビームバーボンがほぼ同価格で2700ml入り。
一瞬迷ったものの、おせち料理を考えて、あえて冒険はせず。
プラボトルはそのままだと注ぎにくいので、オールドパーの1Lの瓶に詰め替えているが、わずか二回分かよ みたいな。
角はこのところ飲んでいたスコッチやアイリッシュに比べるとスイスイ飲め(値段も影響しているか)、その割に酔いが回らないので本当は30%くらいではないかと疑ってしまう。
学生時分、一時期クリーニングのアルバイトをやっていた。
最初のうちは大型電器店の定休日にフロアのワックスがけをしたり、入居者退去後のマンションの清掃などをしていたが、その後当時としては珍しかった布団やカーペットのクリーニング部門に移った。
勤務は夜間で、工場が少し遠くにあったため、夕方事務所に集合後、会社の車で異動。
勤務は午後六時から午後十時までで、途中二十分程度の軽食タイムがあった。
食事は会社持ちで、アルミホイルの鍋を火にかけるラーメンやうどんが多かったような記憶があるが、今のご時世なら勤務時間は減るし会社の持ち出しは増えるしで、
「食事は済ませてくるように」
となるのではないか。
夜の部は学生向けに募集をしていたが、なぜか一人だけNさんという四十代半ばくらいの人がいた。
小柄で短髪、関西弁で気さくにしゃべり、ベージュの作業ズボンにアンダーウェアの白のU首シャツという出で立ちで、いかにも大阪のおっちゃんといった感じ。
Nさんはカーペット担当で、筒型の底のブラシがぐるぐる回る機械を押しながらカーペットの上を往復していた。
アルバイトは作業中は皆別々に作業しているので、軽食タイムか車の中で多少会話をする程度だった。
その後、Nさんは昼の勤務にも入ることがあったようで、
「昨日な、昼仕事に呼ばれて、メシ食うてから暇やったからパチンコ屋行ってん。そしたら五千円バァや。何のために来たかわからへん」
と冗談交じりに言っていた。
私も一度だけバイト帰りに同じ経験をしたので、それ以来バイトの日はおとなしく帰るようにしていた。
ある日、注文がたまっているとのことで、珍しく全員が昼の勤務に招集されたのだが、帰りの車の都合がつかず、JRで帰ることになった。
各駅停車に乗り、途中の駅で乗り換えを待つ間、夏の暑いホームでNさんと二人煙草を吸っていた。
アルバイトに励む学生は真面目な者が多く、喫煙はもとより、私などは
「五千円もらえるのだから昼メシくらい」
と、五百円の日替わり定食を食べに行くこともよくあったが、買ってきたパンと牛乳で二百円程度ですませる者もいた。
仕送りの足しにという部分では変わらないが、私は同郷の友人と飲むために使うことが多かった。
Nさんは自分と似た空気を私から感じたのか、
「兄ちゃんやったらわかってくれそうやから言うとくわ」
と、左手を私に見せた。
「オレな、大阪でヘタ打ってな、ほとぼりをさましに来てるんや」
日頃作業を別々にしていることもあり、小指のことなどまったく気づいていなかったので、少し驚いたのと同時に、人は見かけによらないもの、また映画の世界だけではないのだと思った。
その後、どういった理由かは忘れたが、私はクリーニング会社のアルバイトへは行かなくなったので、Nさんのその後は知らない。
三十年余りたった今、ご存命かどうかはわからないが、今でもJRに乗ると時々思い出すことがある。