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頑固一徹スイスに学ぶ(国際派日本人養成講座から)

注)以下はメールマガジン「国際派日本人養成講座」からの引用です。
興味のある方は、メールマガジンを受信すれば、定期的に読むことが出来ます。


■ 国際派日本人養成講座 ■

頑固一徹スイスに学ぶ

国連にもヨーロッパ連合にも入らずに、我が道を行くスイスの見上げた頑固一徹ぶり


■1.スイスの古城から■

 先週は中国からお送りしましたが、今週はスイスからです。
日程の都合で、2週続きの外遊となってしまいました。今回は、
ジュネーブから列車で2時間ほどアルプス山中に入った小さな
街で国際会議に参加しています。

 会場となったホテルは、古いお城を改装したもので、案内さ
れた部屋に入ってびっくり。12畳ほどの広さで、テレビも冷
蔵庫もありません。クローゼットやベッドは100年も経って
いるかと思われる本物のアンチーク家具です。これまた古い木
製の机の上には、デスク・ライトではなく、ロウソク立てが置
かれてあります。

 机に座ると、目の前の大きな窓からは、急峻な山に囲まれた
小さな街並が見渡せます。古い家並みと狭い道路はまるで中世
の街のようです。緑豊かな山肌には地味な色合いの民家が点在
しています。時折、時刻を告げる教会の鐘が聞こえてくる以外、
まったくの静寂に包まれています。大自然の中に溶け込んだ小
さな共同体の中で暮らす人々の静かで幸福な生活が想像できま
す。

■2.テーブル上の国旗■

 会議はお城の庭にある別棟の建物で行われました。小さな噴
水と花咲乱れる庭を通って、山荘風の目立たない建物に入ると、
中は広く、明るいモダンな会議場でした。部屋を半地下にして、
天井は高いのに、外からは目立たない高さにする、という心憎
い設計です。

 今回の国際会議には、ヨーロッパ各国、アメリカ、オースト
ラリア、日本からの代表が集まりましたが、ロの字型に置かれ
たテーブルには、出席者の国籍、所属機関、氏名が書かれたプ
レートが立てられています。国旗も大きく印刷されています。

 自分の席を探すと、色鮮やかな日の丸が離れた所からでもす
ぐに見つかりました。この単純にして、美しい国旗を前に座っ
て、まことに誇らしい気持ちに浸りながら、日の丸に反対する
人はこういう時どういう態度をとるのだろうか、などとつい余
計な事を考えてしまいます。

 ドイツ、スペイン、フィンランドなどヨーロッパ各国からの
参加者のプレートには、青地に星が丸く並んだヨーロッパ連合
(EU)の旗を共通に掲げています。デザインとしてはまこと
に日の丸とよく似ていて、やはり「丸」は「和」の象徴なので
しょう。

 しかし面白い事に、スイス代表のみが赤地に白十字のスイス
国旗を飾っています。スイスはいまだにEUに加盟していない
からです。

■3.国連にもEUにも加盟していないスイス■

 ジュネーブには国連ヨーロッパ本部、国際労働機関などの国
際機関やデュポン、ヒューレット・パッカードなど国際的大企
業の欧州本社が並び、またチューリッヒが国際金融の中心であ
ることから、スイスは国際社会のリーダー役のような印象があ
りますが、実はスイス自体はいまだに国連にもEUにも加盟し
ていません。
 
 スイス政府は国連やEUへの加盟を提案し、国民投票にかけ
たのですが、いずれも国民からあっさり否定されました。国連
加盟に関する国民投票は1986年に行われましたが、国民の中に
は「中立を貫いたからこそ、過去二回の大戦に巻き込まれなか
った」との感情が強く、4人に3人が否定票を投じました。

 EUに関しても、その経済面のみの統合である欧州経済地域
(EEA)への加盟提案が92年に否決されています。EUは
すでにヨーロッパで15カ国が加盟し、さらに中・東欧などの
11カ国が加盟候補となっています。スイスの周囲ではドイツ、
フランス、イタリア、オーストリアと、すべてEUに加盟し、
今やスイスは取り残された孤島と化しています。

■4.なぜスイスはEUに加盟しないのか■

 スイス国民はなぜ、EU加盟に反対するのでしょうか? E
Uに加盟するには、経済や政治の面で、国内のシステムを大幅
にEU標準に合わせなければならず、そのために今までスイス
が長年かけて築いてきた独自の伝統的制度、政策を失うことに
なるからです。

 たとえば、世界の大企業がスイスに欧州本社を置く理由の一
つは、法人税の「特別税制」です。スイス各州は国よりも強い
権力を持っており、それぞれ独自の法人税制度を用意して多国
籍企業の誘致競争をしています。進出企業のスイス国内の取引
高が世界全体で占める割合の2割未満であれば、法人税は利益
の1割ほどで済み、また進出してから十年は、法人税を全額払
わないで済む制度もあります。

 ちなみに、ジュネーブ州での法人税はわずか13%であり、
パリの41・6%、アムステルダムの35%、ロンドンの33
%に比べて段違いに低いのです。[1]

 こうして世界の多国籍企業や富豪の貯めこんだ富が、これま
た世界に誇る秘密保持をモットーとしたスイスの銀行で安全に
守られます。スイスが国際金融の中心地たりえているのも、こ
のような独自の制度によって自国を「差別化」しているからで
あり、それを放棄することは、スイス経済の優位性を失うこと
につながるからです。

 「EU域外にあることで、スイスは企業を支援し続けること
が出来る」。ジュネーブ州経済局の多国籍企業向けパンフレッ
トは誇らしげにこう宣言しています。

■5.偏屈者でどこが悪い■

 スイス国民がEU加盟を嫌うもう一つの理由が政治面です。
EUに加盟するためには、国民投票に代表されるスイス伝統の
直接民主主義を放棄、ないしは大幅に見直すこと、州、コミュ
ーンの自立度を大幅に下げること、などが必要となります。

 これらはスイスが建国以来、営々と深めてきた政治的叡智で
あり、スイスはそれにより、2世紀近い平和と、世界でも有数
の豊かな生活を築いてきたのです。この歴史的に実証された叡
智を捨て去って、今さら他国と横並びの制度をとるだけの必要
性がどこにあるか、というのが、スイスの保守性を重んずる人
々の感覚でしょう。

「自分たちの政治は自分たちが直接投票で決めるのだ、ブラッ
セルのEU本部の官僚たちの言いなりになどなるものか」とい
う頑固ぶりを発揮している訳です。フランス人はよくスイス人
を「田舎の偏屈者」と蔑むそうですが、「偏屈者で何が悪い」
というのが、スイス人の返答でしょう。

■6.一歩一歩進めていく保守主義■

 92年に欧州経済地域(EEA)への加盟提案が否決されて
から、スイス政府は対EUとの個別交渉を進めてきました。こ
れはEUやEEAへの参加は棚上げして、経済面の統合で互い
に実利は追求して行こうという戦略です。

 たとえば、交通の自由を拡大することにより、スイス経由の
ドイツ−イタリア間輸送が段階的に自由化されますが、これは
公害の少ないレール輸送を中心とし、さらに通行料はスイス側
の要求に従って設定されました。

 またジュネーブでは隣接するフランス領内に大規模な工業団
地、貨物集散地などが広がりつつあり、交通の自由化を機会に
かなり広範囲に亘る国境を越えたジュネーブ産業圏が発達する
と見られています。[2]

 この個別交渉が国民投票にかけられ、70%近い賛成票が投じ
られましたが、興味深いのはスイス政府が今回の交渉は「EU
加盟とは何の関係もない」と繰り返し、声明を出していた点で
す。

 加盟推進派は、これをEU加盟への一大ステップと位置づけ
ていますが、反対派はこれで経済的効果は得られたのだから、
加盟は不要と主張しています。こうして国民の間で綱引きをし
ながら、一歩一歩じっくりと歩を進めていくというのが、スイ
ス流の保守主義なのでしょう。スイス国民は「ヨーロッパは一
つ」というような抽象的理念や、「バスに乗り遅れるな」とい
うような政治的スローガンには踊らされません。[3]

■7.2軒のレストラン■

 2日間の会議で両日ともディナーパーティがありましたが、
1日目は街中のレストランでシカ肉のフランス料理を、2日目
は山頂にある山小屋風レストランで、チーズとジャガイモ中心
のスイス料理を味わいました。

 最初の店では、しゃきっとした老貴婦人のようなウェイトレ
スが厳かに給仕をしてくれます。「メルシー・ボークー、マダ
ム」と思わず「マダム」をつけて、片言のフランス語で礼を言
うと、表情一つ変えずに「ジュ・ブ・ザン・プリー(どういた
しまして)」と応えます。外国人がフランス語を話しても当然
だという「中華思想」ぶりは、フランスとまったく変わりませ
ん。

 2日目のスイス料理の店では、ゆでたジャガイモを溶かした
チーズに絡めて食べるというメインディッシュを一皿片づける
と、すぐにお代わりが出て来るという「わんこそば」流サービ
スにいささか辟易しましたが、ドイツ語を話している店の主人
に、これまた片言のドイツ語で、「なかなか”興味深い”料理
だった。ありがとう」と言うと、「おう、あんたはドイツ語が
話せるのか」と喜んでいました。外国人がドイツ語を話すと、
素直に喜ぶ点はいかにもドイツ人と同じです。

 この地域はドイツ語圏とフランス語圏の境界なので、このよ
うに異なる母国語を話す人々が入り交じって住んでいるのです。
スイスは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、それにラテン
語系のロマンス語を公用語としており、国歌もこの4カ国語で
歌詞があります。

■8.ボーダーレス化の道を選ばなかったスイス■

 これを日本にたとえれば、北海道と本州はロシア語圏、九州
は朝鮮語圏、四国は中国語圏であり、民族や文化もロシア、朝
鮮、中国と共通性を持ち、しかもそれぞれの隣国と地続きでつ
ながっている、という状態です。そのような地域が、ばらばら
にもならず、隣国にも吸収されずに、小さな独立国家として維
持されている。考えてみれば、これは実に大変なことです。

 この多言語、多文化の特性、そしてヨーロッパの中央に位置
するという地理的特長を生かせば、スイスはEU推進の中心的
役割を担えた可能性があります。EUの本部にしても、今のブ
ラッセルよりも、すでに多くの国際機関のあるジュネーブの方
が、EU本部を置くにはふさわしい都市です。

 しかし、スイスがEU統合を率先して進めていたら、ジュネ
ーブはフランスとの一体化を進め、チューリッヒはドイツ、オ
ーストリアとの結びつきを強める、というようにスイスはバラ
バラになっていったでしょう。

 そして取り残されたその他の農村地域や小都市はもともと競
争力の弱い農業がさらに弱体化して、地方自治の伝統も廃れ、
このホテルの窓から見える小さな共同体の豊かで美しい生活も
失われていたでしょう。

 そのようなボーダーレス化の道をスイスは選びませんでした。

■9.凛とした頑固一徹ぶり■

 我が国では、明治維新以来、富国強兵で欧米に追いつくこと
を国家目標としてきました。また戦後は、高度成長策でこれま
た欧米に追いつけ、追い越せを国家スローガンとしてきました。
戦前は国家の独立維持のため、戦後は経済復興のため、とそれ
ぞれ妥当な選択ではありましたが、明治以来130年の間、常
に目標も理想も基準も「海外」にある、という状態が続いてき
ました。

 その結果、我々は国連を理想化し、「グローバル・スタンダ
ード」を基準として、それに合わない部分はすべて自らを直す
べきだ、と無条件に思いこむ思考習慣にはまりこんでいます。
夫婦別姓というような文化的問題ですら、日本の夫婦同姓制度
は世界の大勢に逆らっている、というような議論がなされまし
た。外交面でも、近隣諸国のご機嫌を損じたら、それは常に自
分の方が悪いのだと無条件に思いこんでしまう人が少なくあり
ません。

 これに比べれば、スイスのゴーイング・マイ・ウェイぶりは
まことに見事な対照をしています。経済的にはEUとの結びつ
きを強めて互恵関係を築きながら、政治的には自主独立を貫く
という一見矛盾した政策を貫いているのは、「自分の事は自分
で決める」という原則でしょう。頑固一徹とは、このように自
らの原則に忠実なことを言います。

 国家とは、国民が互いに力を合わせて、幸せを築いて行
く共同体だ。美しい自然の中で、家族や隣人達と仲良く暮
らす静かな毎日、中立政策と地方自治で2世紀近くも平和
と安定を保ってきた歴史への誇り、そして一朝事あれば国
民皆兵として祖国を守ろうとする使命感、こうした精神的
に充実した生活こそ、我々にとっての幸福だ。冨を求める
あまりに真の幸福を見失っては本末転倒だ。何が幸福か、
それをどう追求するかは、我々自身が決める。

 古城の窓から見渡せる緑と静寂に包まれた中世のような小さ
な街並みは、そんな凛とした頑固一徹ぶりを漂わせていました。
書いた人 nippon | comments(0) | - |




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