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原油安と円安 〜 日出る国の新たな暁光(国際派日本人養成講座から)

注)以下はメールマガジン「国際派日本人養成講座」からの引用です。
興味のある方は、メールマガジンを受信すれば、定期的に読むことが出来ます。



■ 国際派日本人養成講座 ■

No.904 原油安と円安 〜 日出る国の新たな暁光

 原油安と円安は日出ずる国の新たな夜明けを示す暁光である。



■1.原油安と円安

 二つの「安」が我々の身辺に押し寄せている。原油安と円安である。

 原油安は我々の日常生活においてはガソリン価格の低下として顕著だ。一年前、平成26(2014)年7月のレギュラー実売価格が158.3円だったのが、年明けの2月には125.4円と20%ほども下落し、その後、やや持ち直したとは言え、6月時点で134.5円となっている。

 円相場も同様に急落している。民主党政権下の平成23(2012)年12月には1ドル83.64円だったのが、安倍政権発足後、急激に円安が進み、翌年5月には100円を突破した。昨年7月頃までは100円前後で推移していたが、その後、もう一段の円安が進み、本年6月現在では120円超の水準となっている。

 原油安と円安は、国際的な政治と経済の絡み合いの原因でもあり、結果でもある。この二つが何故生じたのか、我が国や世界にどういう影響を与えるのか、政治・経済の両面にまたがる分析では第一人者である国際エコノミスト・長谷川慶太郎氏の説に耳を傾けて見よう。


■2.原油安の裏にあるもの

 まず原油安から見ていこう。国際的な原油価格は2014年6月に1バレル(159リットル)107ドルを突破した後に下がり始め、12月16日には54ドルとほぼ半値、5年7ヶ月ぶりの安値となった。さらに2015年初にはいきなり40ドル台となった。

 昨年11月末にはOPEC(石油輸出国機構)の総会が開かれ、世界の代表的な産油国12カ国が集まった。一部の参加国が日量3千万バレルの生産枠を減らして価格維持を図るべきだと主張したが、中心国サウジアラビアが減産を受け付けなかったので原油価格下落に拍車がかかった。

 原油安の背景にあるのが、アメリカのシェール革命である。これは地下100〜3千メートルの深さにあるシェール(頁岩、けつがん)と呼ばれる硬い岩盤層に埋まっているシェールオイル(原油)とシェールガス(天然ガス)を取り出す技術が確立されたことから起こった。

 従来の油田やガス田は特定の地域に集中しているが、シェールオイル(以下シェールガスも含む)は広く分散しており、アメリカでは2014年にはこれを加えて、原油生産量は912万バレルと、前年比約170万バレルも増加した。国内生産量の増加に伴って、石油製品の輸入量も減っており、2014年は日量525万バレルと昨年よりも約90万バレル減っている。

 同時に、中国を含む新興国の景気が減速し、ヨーロッパ経済も停滞しているので、石油燃料の世界需要も低下している。

 需要量の減少と、供給面でのシェール革命による供給増、サウジによる生産量維持という両面から、国際市場で原油がだぶつき、急激な原油安が起こっているのである。


■3.サウジの思惑

 こうした状況の中で、サウジはなぜOPECの生産枠を削減せず、価格下落を放置したのか? すぐに思いうかぶのは、シェール潰しである。確かに、原油価格の下落により、シェールオイルの採掘を行っている約120もの上場企業の株価が大きく下落した。

 しかし、長谷川氏はこの説を間違いとする。シェールオイルの生産コストは地域によって大きなバラツキがある。バレルあたり1ドルなどと、バレル3ドルのサウジの油田より安い所もある。

 またシェールオイルの場合、半径3〜5キロの地域で、数年間採掘したら、また別の地域に移るというやり方になっていて、原油価格が戻れば、また雨後の竹の子のようにあちこちで採掘が始まる。したがって、一度の原油安でシェールオイル企業を根絶するというわけにはいかない。

 サウジの思惑として、長谷川氏が指摘するのは、OPECに加盟していない産油国、とくにロシアを狙い撃ちすることである。

 現在の世界の原油生産量は日量約8600万バレルであり、そのうちロシアが1060万バレルを占める。ロシアはヨーロッパに売る天然ガスの価格を自ら交渉して決めてきた。天然ガスの価格は原油価格に連動するが、OPECに加盟していないロシアは自由に交渉できる。

 ロシアがOPECに加盟すれば、OPECは約4000万バレルの原油をカバーすることとなり、その価格支配力は飛躍的に高まる。石油市場の盟主としてサウジは、ロシアを屈服させ、OPECに入れたいのである。


■4.原油安に直撃されたロシア経済

 原油安によりロシア経済は壊滅的な影響を受けている。ロシアはエネルギー大国だが、輸出の7割を原油・天然ガスに依存している。原油価格が半減したら、同じ量を輸出しても外貨収入が3割5分も減ってしまう。

 その現れがロシアの通貨ルーブルの急落だ。それまで1ドル27〜35ルーブルの間でそれなりに安定していたのが、ウクライナのクリミア半島併合により、欧米諸国から経済制裁を受けて、ルーブルの急落が始まっていた。

 原油安がさらにこれを直撃して、2014年末には1ドル67〜78ルーブルと半分以下に暴落してしまった。

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 すでにロシア経済は大変な危機に見舞われている。いずれルーブルは紙切れになるだろう。ルーブルを持とうなどと考えるロシア国民はどんどん減っており、ルーブルをドルやユーロに替えようとロシア国民が銀行に殺到している。

そのためドルやユーロの現物が不足するようになり、現物が尽きたウラジオストックの銀行ではルーブルと外貨との交換を停止してしまった。

 食料品についてもロシアでは輸入が多いのでルーブル安とともに食料品の値段も毎日のように上がっていく。12月15日にロシア中央銀行が「2014年の物価上昇率は10%程度」という見通しを公表したのだが、現実には10%を大きく上回っている可能性が高い。だからロシア国民はルーブルでもらった給料を直ちに食料品の買いだめのために使うようになった。[1,p31]
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 ロシアがこの苦境を脱するためには、クリミア半島の併合を断念して欧米諸国に屈服し、さらにOPECに加盟してサウジに屈服するしかない、それまでは原油安が続くだろう、というのが、長谷川氏の見立てである。


■5.原油安に直撃された中国の石油利権

 中国も原油安の打撃を受けている。中国の国有石油企業はこれまでリビア、シリア、イラクなどの世界各地の油田権益を買い漁ってきた。それが原油安によって、投資回収ができず、大きな損失を計上することとなった。

 たとえば、2013年9月、中国は重質油が大量に埋蔵されているベネズエラのオリノコ油田に1兆6千億円を超える巨費を投じたのだが、今回の原油安で油田の評価額は半減してしまった。

 中国の石油閥の中心にいたのが、胡錦濤政権で党内序列9位だった周永康だが、周はこの6月、収賄、職権乱用、機密漏洩などの罪で無期懲役と個人財産の没収が決定された。関係の深いエネルギー企業の元側近も続々と摘発されている。

 そもそも周永康が石油閥の大立て者として石油利権を握ったのは、元国家主席の江沢民によるバックアップがあったからだが、原油安による石油閥の没落により、今後は江沢民の立場も危うくなると長谷川氏は見ている。

 中国は2020年にはアメリカを抜いて世界最大の石油消費国になると予想されており、それに備えるという建前で、中国の石油閥は世界各地の油田権益を買い漁っては実は自らの利権を拡大してきたのだが、今回の原油安によって、そんな利権も吹き飛ばされてしまった。

 なお、中国国内は消費エネルギーの70%以上を石炭に依存しているため、原油価格の下落の恩恵はそれほど受けないという。


■6.原油安と原発再稼働で鬼に金棒の日本経済

 原油安は世界第3位の石油消費国である日本にとって、大きな恩恵をもたらす。東日本大震災での原発事故をきっかけに、平成25(2013)年9月には48基の原子力発電所すべてが停止した。

 不足する電力を火力発電で補うために、原油などの輸入が激増し、平成25年には27兆円と、震災前に比べて10兆円も増加した。これが電力料金の上昇につながって、一般家庭向けが19.4%、企業向けが28.4%も上昇してしまった。

 しかし、急激な原油安によって、原油の輸入にかかる費用は1年間で少なくとも5兆円は削減できる、という試算がある。これが電力料金の引き下げにつながり、日本経済の上昇に寄与する。さらに原発の全面再稼働が加われば、鬼に金棒である。

 原油安によって電力を使う製造業、サービス業だけでなく、ガソリンを使う輸送業、石油燃料を用いる野菜・果物のハウス栽培や漁船のコストも大幅に削減される。高度に石油に依存する日本経済は、原油安の恩恵を様々な面で受ける。

 とすれば、アメリカがシェール革命で原油安を引き起こしたように、日本も独自のエネルギー源を開発して、さらなる原油安を追求すべきだろう。それがメタンハイドレートである。

 日本周辺の海底には低温高圧の下で水とメタンが固体になったメタンハイドレートが存在している。火をつけると燃えるために「燃える水」と呼ばれ、メタンを抽出すれば天然ガスとして利用できる。日本近海ではすでに合計971ヵ所でメタンハイドレートが確認され、国内の天然ガス使用量の100年分が存在する、と推定されている。

 メタンハイドレート利用のための技術開発は着々と進められており、その実用化は目前に迫っている。完成の暁には日本のエネルギーの自立が実現され、遠く中東から原油を輸入する、というリスクはなくなる[a]。また一層の原油安をもたらして、日本はアメリカと並んで世界経済を引っ張っていく事になろう。


■7.円安で潤う日本経済

 原油安と並んで、日本経済に大きな恩恵を与えているのが円安である。冒頭に述べたように、安倍政権発足前には80円台だったのが、現在では120円超の水準となっている。これにより、日本企業は空前の利益を出せるようになった。

 平成26(2014)年4〜9月期の決算では上場企業約1500社の経常利益は1兆5千億円増えて過去最高となった。平成27年3月期の通年でもリーマンショック前の過去最高にほぼ並ぶ見通しだ。

 その理由は簡単で、たとえば輸出で1億ドル儲けていた日本企業は、円に換えれば80億円の利益だったのが、120億円と1.5倍となる。原材料を輸入している場合は円安によるコストアップはあるが、それを補って余りある利益が得られる。

 あるいは外国企業とドルベースで張り合っている場合では、円ベースのコストが勝手に下がってしまうので、価格競争力が増して、売上が増える。

 また、円安は観光業界も潤す。円安によって、たとえば外国からの観光客が、日本国内の旅行で20万円使おうとすると、かつては2,500ドル必要だったのが、1,667ドルで済む。

 これに伴い外国からの訪日客は平成24(2012)年の836万人が、26年には1,341万人と60%も増加している(日本政府観光局統計)。これによりホテル・交通・飲食など国内業界が潤っている。


■8.日出ずる国の新たな夜明け

 なぜ、こんなに急激な円安が実現したのか。その原因として長谷川氏が指摘するのが安倍政権誕生直後に実施した「資金の移動に対する金融機関への規制撤廃」である。これにより、日本の銀行が国内にだぶつく長期資金を自由に外国に投資できるようになった。[1,p93]

 日本は家庭の貯蓄などで国内に膨大な資金があり、そのため金利が非常に安い。たとえば、平成26(2014)年末の10年物国債の利回りは日本で0.3%と、アメリカの2.1%とは桁違いの水準である。その日本の資金を求めて海外の一流企業が日本のメガバンクに殺到した。

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・・・今や日本の三大メガバンク(みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行)の役員は多忙を極めている。連日連夜、世界各国の一流企業のトップと会わなければならないからだ。世界の一流企業が借り手となるので、三大メガバンクにとっても貸し倒れを心配する必要がない。

 こうして三大メガバンクから何十億円あるいは何百億円にのぼる巨額の資金が融資という形でどんどん海外の一流企業へと移動しているのだが、当然ながらそのさいに三大メガバンクは円を売ってドルを買わなければならない。これは外国為替市場では円売りドル買いだから円安の原動力となる。[1,p69]
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 日本のメガバンクから見れば、たとえば今まで国内向けの住宅ローンでは利回りが0.8%程度だったのが、外国の一流企業相手にアメリカの国債利回り2.0%に1.3%を上乗せして貸し出せる。

 世界一資金の余裕のある日本が、世界的なドルの実需に応えている。我が国は優れた技術商品の輸出大国、知的財産で稼ぐ技術大国のみならず、豊かな資金を世界に提供する資本大国にもなりつつある。

 原油安と円安は日出ずる国の新たな夜明けを示す暁光である。
(文責:伊勢雅臣)
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