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白波の思い出



ウイスキーの在庫がなくなってきたので、今回は白波を久しぶりに買った。
このところというか、十年以上前から
「芋焼酎は白波だけじゃないんだよ」
と言わんばかりに、ほぼ同価格帯の黒霧島を飲んでいる。
元々芋焼酎=さつま白波だった親しい店にもお願いして置いてもらったところ、今は黒霧島だけになっていたりする。

初めて芋焼酎を飲んだのは、学生時代に二週間泊まりがけのアルバイトに行ったときであった。
高校時代、最も気の合った友人から、いとこの勤めている会社でこれこれこういうのがあってと誘いを受け、八月前半の二週間を県外の古びた旅館で過ごすことになった。
バイト代はさして高額というわけではなかったが、内容は社員の皆さんの作業補助でさほど重労働でもなく、今で言えばホワイト系の会社だったこともあり、まったくストレスもなかった。
最初の数日は8to4のフルタイムだったが、徐々に作業量も減り、午後の早い時間帯にあがるようになってからは、近所の海で毎日場所を変えながら皆で貝を調達し、夜になればそれを肴に酒宴の繰り返し。
当時の私は、酒といえばほぼビールか日本酒。
今では安価に変えるバーボンなどは、ものによっては四倍くらいしていたのでとても飲めなかった。
そこで、なんだこれはと思ったのが初めてここで経験したさつま白波。
これもこれでありかなと思ったが、その後社会人になり乙類焼酎がポピュラーになるまで飲む機会はなかったが。
田舎町なので、それ以外の遊びはなかったが、三食付きということもあり、もう二週間いてもいいなと思う生活だった。

アルバイトは私と友人に加え、一般の募集で来たらしい、少し小柄で柔和ではあるが寡黙なSさんという四十歳くらいの人がいた。
私は基本的に友人とペアで作業をしていたので、日中Sさんと話す機会はあまりなく、毎晩皆どんちゃんやっているのにまったく酒を飲もうとしないSさんが不思議だった。
楽しい二週間も終わり、最後の夜、
「今日は飲みます!」
とSさんが宣言した。
饒舌になるばかりでなく、踊りまで披露し、皆大いに盛り上がった。
二週間の間は旅館の広間で雑魚寝だったのだが、翌朝、最終日とはいえ、いつもより少し騒がしい。
聞けば、Sさんが寝小便をしたのだそう。

それから六、七年後にたまたま当時のメンバーで最も上役だった方と仕事でお会いする機会があり、思い出話をさせていただいた。
すでに日本の景気が悪化し、就職氷河期に入っていた時代なので、予想はしていたが、もうああいった形ではやっていないとのことだった。
今でもさつま白波を飲むと、しょんぼりしすぎるでもなく、
「ああ、やっちゃったか」
といった風だったSさんの表情を時折思い出すことがある。

書いた人 nippon | comments(0) | - |




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