注)以下はメールマガジン「国際派日本人養成講座」からの引用です。
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■ 国際派日本人養成講座 ■
国際派日本人にお勧めの英語勉強法
「英語ができなければダメ」という強迫観念から、まず抜けだそう。
■1.マイクロソフト日本の取締役でも「英語はほとんど話せなかった」
マイクロソフト日本法人の取締役を務めていた成毛眞(なるけ・まこと)氏が『日本人の9割に英語はいらない』という面白いタイトルの本を出しているので、国際派日本人に参考になるかと思って読んでみた。「はじめに」から意表をつくスタートだ。
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ご存知の方も多いと思うが、私は以前マイクロソフト日本法人の取締役を務めていた。入社した当時は、外資系の企業自体、日本ではまだ珍しかった時代である。さぞかし英語が堪能だったのだろうと思われるかもしれなぃが、実は、英語はほとんど話せなかった。マイクロソフトに入り、シアトルに出張するようになってから覚えたのである。
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マイクロソフト日本法人で英語ができないのは、成毛氏ばかりではない。
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外資系企業の社員は全員英語ができる。英語がしゃべれなければ外資系企業で働くことはできない。多くの人がこう思っているようだが、これは間違いである。外資系で本当の英語力が求められるのは、本社の上層部と直接やりとりをする経営陣で、全社員の割合からすればせいぜい3%である。
私がいたマイクロソフトでも、部長クラスまではみな英語が下手だった。本部長をやっている人間が「いやあ、英語に関してはヘレン・ケラーですよ」とよく言っていたほどである。謙遜などではなく、彼は本当に英語を話せなかった。
だが、彼は英語を話せなくても出世できたし、クビを切られることもなかった。[1,p82]
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■2.「英語は下手でも、仕事ができればいい」
楽天やユニクロの持ち株会社ファーストリテイリングでは、社内の公用語を英語にしたと聞くが、一方で外資系の日本法人が逆に部長以下はみな英語が下手だった、とはどうしたわけか。成毛氏は、こんな種明かしをしている。
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なぜなら、外資系の企業であっても、日本の支店は日本人を相手に商売をするからである。シアトルの本社からすれば、彼に求めているのは英語力ではなく、日本人に商品をうまく売り込む能力である。英語は下手でも、仕事ができればいい。実にシンプルかつ合理的な考えである。
アメリカの経営陣から見れば、日本人社員は日本人の顧客相手にうまく商品を売ってくれれば良いのであって、英語ができなくともコミュニケーションが必要とあれば、通訳を使えば良い。ビジネスでつっこんだ議論をするには、生半可な英語力ではダメで、それなら商売の実力さえあれば、あとは通訳を通じて議論した方が速いし正確だ。
楽天社員と覚しき人がツイッターで「『重要なことなので日本語で失礼します』という言葉が流行ってきた」とつぶやいて話題になったが、海外でのビジネス経験のある人なら、さもありなんと思うだろう。
平成26(2012)年卒の学生を対象に行った就職希望企業人気ランキングによると、楽天は前回57位から227位、ファーストリテイリングは前回63位から262位に急落したそうだ[1,p87] 英語に自信のない学生が敬遠したのか、あるいは英語公用化などと打ち上げる経営者の見識を疑ったのか。いずれにせよ優秀な学生から見離されたという、残念な結果である。
■3.本当の英語力が必要なのは日本人の数%
「日本人の9割に英語はいらない」という成毛氏の主張は、以下の計算に基づく。万人単位で丸めて紹介すると:
まず、3ヶ月以上外国に長期滞在している人数は、この20年の平均で約57万人。平均滞在期間を4年として、人生80年のうち4年間、すなわち人生の1/20の期間を海外で過ごす人が常に約57万人いるとすると、日本人全体で一生のうち4年ほど海外で滞在する人はその20倍、11百万人ほどだ。
これに外資系企業の雇用者数約1百万人と、ホテルやレストラン、交通機関などで訪日外国人にサービスする人口を1百万人と仮定すると、合計13百万人。日本の総人口の約1割となる、という計算だ。
逆に言えば、日本人の9割は外国に長期滞在もしないし、外資系に勤めたりも、ホテル・交通機関などで外国人にサービスもしない、実生活ではほとんど英語を使う必要はないという事になる。
しかし、この1割にしても、本当の英語力が必要かと言うと、大いに疑問がある。現実には外資系企業に勤めていても、マイクロソフトのように97%は本当の英語力は不要であったり、レストランやホテルでも使うのは「ご注文は何にしますか」などと限られた表現だけだ。
海外長期滞在と言っても、英語などまったく通じない国もあるので、全ての人が英語が必要なわけではない。こう考えると、議論や交渉、知的会話などができるレベルの英語力が必要なのは、数%台しかいない、と言えるのではないか。
■4.自国語で大学教育までできる国は珍しい
しかし、国民のうち英語が必要なのはせいぜい数%しかいない、という日本の状況は世界でも珍しい。
たとえば、英語の話せるインド人は9千万人に上ると言われている。総人口が12.5億人なので、それでも7%台だが、国際会議や交渉の場で、インド人があの変わった抑揚の英語でリードしている場面にはよく出くわす。
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・・・インド人が、日本の大学では日本語で授業が行われていると知ると、驚くのだという。日本人の英語力の低さに驚いているのではない。日本人が母国語で自然科学や社会科学といった高度な学問を学べることに驚くのである。[1,p4]
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インドの大学では英語で授業が行われる。これは500万人以上の話者を持つ言語が26もあるという多言語国家で、英語が準公用語となっている事と、大学の教科書は英語で揃っているので、そのまま使った方が効率的だと、という事情がある。
そもそも世界で、自国語で大学まで学べるという国はそれほど多くない。ヨーロッパでもドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ロシア語などの大言語を除けば、デンマーク語とかアイルランド語とかチェコ語といった話者の少ない言語の国では大学の教科書のような少人数向けの本は出版できないからである。
もう一つは、大学で使う高度な近代的概念用語を揃えた言語もそれほど多くない。たとえば「中華人民共和国憲法」とか「北朝鮮人民民主主義共和国」などでの「人民」「共和国」「憲法」「民主主義」などは、日本の明治の先達が漢字にした概念用語を直輸入して使っているだけだ。
輸入品だから、いつまでも憲法や民主主義などが根づかないのだろうと皮肉の一つも言いたい所だが、逆に日本から輸入した概念用語がなければ、中国語や朝鮮語では大学教科書は作れなかったか、作れても何十年も遅れたであろう。
自国語で大学教育ができるというのは、それだけその言語の人口規模が大きいことと、その言語が高度な近代的概念用語を揃えているという必要がある、ということである。そういう言語は世界でも10指に満たないであろう。我が国はそれだけ恵まれた環境にあるのである。
■5.「英語ができないのは、幸福な国の証」
英語力のグローバルなテスト、TOEIC(Test Of English for International Communication)の2010年の平均点で、日本はアジアの30カ国中27位と低迷している。しかし、アジアの上位5位を見るとシンガポール、インド、マレーシア、パキスタン、フィリピンとなっている。
この5カ国の共通点はイギリスやアメリカなど英語国の植民地になっていたことだ。これらの国では前節で述べたように、大学教育は英語で受けるというばかりでなく、今でも旧宗主国が政治、経済、文化的な影響力を持っている。だから英米に留学したり、移住したり、英米企業の現地法人に勤めたり、という事で、英語を使わざるを得ないシーンが多い。
こういう国々では、英語ができない人はエリートとして扱われない。英語ができなければ、生涯大きなハンディを背負うので、必死に勉強しなければならない。日本人がいつ使うか分からないけど、とりあえず勉強しておこう、などと言うのとは、切実さが違う。
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自国の産業を持ち、国民がみな一定の生活レベルを保っている日本では、海外に飛び出さなくても自国で幸せに生きていける。英語ができないのは、幸福な国の証でもあるのではないだろうか。
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■6.海外で仕事をするのに必要な能力は
そうは言っても、仕事上、英語が必要な数%の人もいる。そういう人はどうしたらよいのだろうか。私の知人のAさんは、日本の自動車部品会社のアメリカ現地法人の社長をしているが、日本から派遣された駐在員に関して、次のような事情を語ってくれた。
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日本からの駐在員で、TOEICで400点未満でも、明るくどんどんアメリカ人の中に飛び込んでいくような人は周囲と良いチームワークを作っている。仕事での会話と言っても、決まった専門用語と、中学レベルの文法と基本表現を知っていれば、だいたい間に合う。
一番すごい人は、中卒ながら日本の現場で職長をやっていた人で、アメリカの工場でも、専門用語を並べるだけで、作業者をアゴで使っていた。それでも、一人一人を一生懸命育てようとしていて、その姿勢はアメリカ人にもすぐ伝わるので、皆、彼の言うことをよく聴いていた。
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海外での仕事に必要なのは、1に専門能力、2に誠実さ・真剣さなどの人格、3にコミュニケーション能力だ。英語力は三番目のコミュニケーションの一部に過ぎない。
■7.英語をマスターするのに2千時間は必要
アメリカの外務職員局の調査によると、アメリカ人がフランス語、スペイン語など欧米圏の言語をマスターするには約600時間で済むが、日本語や中国語、アラビア語などは難しく22百時間が必要だとしている。
日本人が英語をマスターするのも2千時間ほど必要と言われており[a]、特に日本人が語学下手という訳ではない。単に日本語と英語はそれほど異なった言語だ、という事だ。
中学から高校までで1300時間こなしているが、間延びして6年間もかけているから、実質500時間ほど。残り1500時間を社会人になってからやろうとすると大変だ。
仕事を持つ社会人なら、せいぜい週2時間も英語学習に使えれば立派なものだが、それでは750週、14年もかかってしまう。こういうペースでは、日本で仕事をしながら英語を流暢に話せるレベルに到達するのは、ほとんど不可能だと考えた方が良い。
成毛氏は日本人の社会人が、目的も必要性も不明確なまま、英語の勉強をするよりは、学問や読書をする事を勧めている。確かに、1500時間もあれば、1冊3時間としても、500冊は本を読める勘定になる。どんな分野でも、500冊も本を読めば専門家のレベルに達するだろう。その一部で古典を繰り返し読めば、人格も磨ける。
科学技術や法律、経済に限らず、ドイツ哲学だろうが英米文学だろうが、日本では日本人による著書や、世界の名著良書の邦訳が揃っている、という日本人だけが享受できる幸福を活用すべきた。
そうして身につけた業務能力と人格は、国内でもそのまま役に立つし、海外に駐在になっても便りにされる。英語は、現地に行ってから泥縄で練習すればよいのである。
現地でなら集中的に英語を使いながら習得できるし、現地の真剣勝負の中で必要性がはっきりしてから身につけた方が効率的だ。Aさんの言うように、専門能力と人格が身についていれば、英語は即席でも仕事はできる。
■8.国際派日本人にお勧めの英語勉強法
弊誌で今まで英語教育を扱ってきた号ともあわせて、年代別の英語勉強法をまとめると、以下のようになる。
・小学校まで: 幼児に英語を教えるのは百害あって一利なしであるから、まずは国語をきちんと教えて、言語能力、論理的思考能力を鍛える[b]。英語塾に通わせるよりも、論語の素読や日本語の名文を暗唱する塾に入れて日本人としての背骨を鍛えるべきだ。
・学生時代: 中学、高校では文法中心の英語をしっかり勉強する。英文法と知的に格闘することで、国語の力も磨かれる。大学に入って、将来、英語が必要な数%になる志があるなら、その文法力の上で、英米人の英語ではなく国際コミュニケーション用の英語(イングリック)を学ぶ。
・社会人: 英語を勉強する暇があったら、自分の専門分野の勉強をするか、日本の古典や歴史を学ぶ。もし、本当に英語が必要な数%となったら、現地で泥縄の勉強をすれば良い。
これによって専門能力と日本人としての品格を持って、国際的な舞台でも流暢ではないが論理的な英語できちんと自己主張ができる国際派日本人になれるだろう。