注)以下はメールマガジン「国際派日本人養成講座」からの引用です。
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■1.希望がなければ創れば良い
「この国には何でもある。だが、希望だけがない」とは、村上龍の小説『希望の国のエクソダス』に出てくる印象的なセリフだ。「なるほど」と当初は思ったが、「ちょっと待ってよ」と考え直した。
希望がなければ創ればよい。車や家では「なければ創れば良い」とは言えないが、希望なら自分の心の中で創れるはずだ。希望を他人から与えられるものと思い込み、自ら創りだすという逞(たくま)しさを失っているからこそ、こういうセリフに共感してしまうのではないか。
この新年号では、初夢として、我国の未来に関する希望を語ってみたい。以下に紹介する夢は、架空のものではない。様々な人々が自ら描き出し、その実現に向けて自分の人生で努力をしている夢である。
■2.エネルギー自立の夢
夢にもいろいろな分野があるが、まずはエネルギーの分野をとりあげたい。エネルギーを輸入に頼っている点が近現代の日本のアキレス腱であり、先の大戦にしても、米英蘭の対日石油禁輸が我が国を袋小路に追い込んだのである。
現時点でもエネルギーの殆どを輸入に頼っており、例えば中国海軍に石油輸入のシーレーンを抑えられたら、もはや属国となるしかない[b]。逆に、エネルギーで自立できたら、こうした100年来の課題が一挙に解決できることになる。
地球レベルで見ても、資源・エネルギーの枯渇と、化石燃料による環境破壊が人類の生存を脅かすレベルになってきている。ここは我が国の技術で人類の未来を切り開きたいところだ。
先の福島第一原発事故で、原子力の危険性が認識されたが、原子力を代替する自然エネルギーとしては、太陽光・風力・地熱などが普及期に入っている。
しかし、これら以外にも、夢のエネルギー源が日本の技術で着々と開発されている。本号では、それらの中から、いくつかを紹介したい。
■3.渓流や水路で水車を回す小水力発電
水田の横を流れるせせらぎで回る水車は、いかにも懐かしい日本の原風景である。国土の急峻な我が国では、多くの小さな水流がある。そこに設けた水車で発電しようというのが、小水力発電である。
今までの水力発電は、巨大なコンクリートのダムを建設し、その上流にある村を水没させるなど、自然や社会への影響が大きかった。小水力発電は、どこにでもある水路、渓流に水車を設置するだけなので、自然にも村落にも影響を与えずに、かつ必要な場所で電気を得ることができる。
また水路や渓流は24時間、水が流れているので、太陽光発電ののように夜は休業とか、風力発電で無風の時はお手上げ、という心配がない。
栃木県那須塩原市の那須野ケ原土地改良区連合では、農業用水に7基の発電機を設置して1千kWを発電し、水門の開閉や地下水の汲み上げなどに利用している。冬場は余った電力を東京電力に売って年間約6千万円もの収入を上げている、との由。
環境省の試算では、3万kW未満の中小水力発電の潜在能力は原発14基分に相当する1400万kWもあるという。
小水力発電に適した小型発電機の開発も進められている。草津市の元大工、平松敬司さん(73)と京都大大学院工学研究科の中村武恒准教授が開発した「平松式発電機」は、発電機内の抵抗を極限まで減らすことで、効率的な発電を実現し、1台で1世帯分の電力を賄える能力を持つ。
我が国のどこにでもある渓流の必要な地点から自在にエネルギーを取り出し、その地域で消費するという、まさに地産地消型のエネルギー源である。農村復興の一助ともなるだろう。さらに発展途上国の奥地でも渓流さえあれば電気を得られるので、生活の近代化に貢献することができる。
■4.温泉発電
渓流と同様、火山国日本のたいていの地域にあるのが温泉だ。この温泉から生ずる温水を発電に使うのが、温泉発電である。
これは温泉で湧く熱水(工場での温排水でも良い)で沸点の低いアンモニアなどを沸騰させ、発生した蒸気でタービンを回して発電する仕組み。
新潟県十日町市の松之山温泉では、97度の源泉を使った実証試験を始めた。
一般家庭約100世帯分の電力を作れるという。
神戸製鋼所は、昨年10月から、温泉などで捨てている75〜90度のお湯を使って発電できる装置を発売した。神戸製鋼所が得意とする小型タービンと熱交換の技術で、開発に成功したものである。温泉事業者からの問い合わせが殺到しているという。
より大規模に地下の熱源を使う方法としては、地熱発電がある。米国では原発3基分に相当する309万kWもの地熱発電が行われている。実は地熱発電の技術においても、日本企業は圧倒的な強みを誇っており、富士電機、三菱重工、東芝の3社で世界シェアの7割を占める。
しかし、我が国ではここ10年も新たな地熱発電所の建設が行われていない。
国内の地熱資源のほとんどは国立公園などの保護地域にあり、環境規制があるためだ。また地下の熱水を使うために、近隣の温泉の湯量が減ってしまうのでは、という心配もある。
こうした地熱発電に比べ、温泉発電はごく小規模に、かつ既存の温泉にそのまま導入できるという手軽さがある。これはちょうど小電力発電が、大規模ダムを必要としない点に似ている。
■5.「希望は母なる海にある」
山に渓流があれば、海には海流がある。海流で発電しようというのが海流発電である。潮の満ち引きで発電する潮流発電も、この海流発電の一種である。
各種の方式が考えられているが、その1つとして海中にスクリュー型のタービンをつなぎとめ、海流の力で回して電気を得るという方式がある。
この開発を進めているのが、株式会社ノバエネルギー。同社のホームページによると、明石海峡の橋桁に300kWの発電装置を設置し、橋の下を流れる潮流によって明石海峡大橋のイルミネーションと橋桁のライトアップをする構想を進めている。
明石海峡大橋のイルミネーションは壮大で美しいが、その電力が潮流から得られれば、世界一の大橋を作る我が国の技術力と、自然エネルギー活用への決意を象徴するモニュメントとなろう。
その後、2000kWの海流発電装置800機を黒潮の流れる東シナ海に設置し、原発1.6基分相当の電力を得る「黒潮発電160万キロワット構想」を推進するという。
海流のエネルギーは膨大だ。東シナ海から北上して我が国の沿岸を流る黒潮は世界最大級の海流であり、日本近海では幅100キロメートル、最大速度7.4KM/時は人間の歩行速度の2倍ほどである。
そのごくごく一部、伊豆半島沖の幅150メートル、深さ50メートルの断面だけで、210万kWのエネルギー・ポテンシャルというから、通常原発2基分に相当する。海洋大国日本にふさわしいエネルギー源である
ノバエネルギーの鈴木清美社長は、ホームページでこう語っている。
「日本の場合国土の面積は世界60位ですが、領海と排他的経済水域を合わせると世界第9位の面積となります。そのEEZの海底には豊かな鉱物資源が手つかずのまま眠っております。
鉱物資源は陸上にある物だけではありません。海でエネルギーを生産できれば、そのエネルギーを使って海底の資源を取り出すことが出来るのです。見方を変えれば、わが国は少資源国家ではありません。資源豊かな国になれるのです。希望は母なる海にあるのです」
■6.「日本がエネルギー資源の輸出国になる」
海が秘めるもう一つのエネルギー源は、太陽光で温められた海面近くの温水と、深海の冷水との温度差を利用する海洋温度差発電である。
温水の熱でアンモニア液を蒸発させて、タービンを回し、それを冷水で液体に戻すというサイクルを繰り返す。原理的には100年以上も前から考案されており、世界各国で試行されてきたが、エネルギーの変換効率が上がらず、実用レベルには至っていなかった。
この問題へのブレークスルーに成功したのが、上原春男教授(前佐賀大学学長、現・海洋温度差発電推進機構理事長)のグループが開発したウエハラ・サイクルで、これにより海洋温度差発電の技術開発では日本が世界をリードしている。
沖縄県久米島では日量1万3千トンの海洋深層水を取水して、ミネラル豊富な飲料水、塩、もずくや海ぶどうの養殖などで年間20億円規模の売上を上げている。
この海洋深層水の取水量を拡大し、海洋温度差発電を導入して、出力1250kW、島内の消費電力の10%を供給しようという検討が進んでいる。
海洋温度差発電では、同じ原理で、海水を蒸発させて、冷却すれば真水が得られるため、水の少ない中近東や熱帯の島嶼国には魅力的な技術である。
また、同じ技術で、石油、発電所、鉄鋼、化学等の工場プラントで大量に発生する低温排熱から、電気を取り出す排熱温度差発電も実用化されつつある。
こうした技術開発・設備開発を牽引しているのが、ベンチャー・ビジネスのゼネシス社である。同社社長の實原定幸氏は、ホームページでこう述べている。
「私たちは、海洋温度差発電や排熱温度差発電の実用化・普及により、日本がエネルギー資源の輸出国になるための一翼を担ってまいります」
エネルギーの自立化どころか、輸出国になろうという野心的な夢である。
■7.「発電タウン」の夢
山や海など自然に恵まれた場所では、以上の自然エネルギーの活用が可能だが、大都会ではどうか。都会では多くの人が歩いたり、車が通ったりするが、その時に生ずる振動で発電をしようというのが振動力発電だ。
スピーカーは電気で振動板を震わせて音を出すが、振動力発電はその逆の原理で、圧電素子などで振動を電気に変換する。ベンチャービジネス・音力発電が世界に先駆けて開発した技術である。
首都高速の中央環状線の荒川にかかる五色桜大橋は、通過する自動車の振動で発電し、バッテリーで蓄電して、夜間のイルミネーションに使うという世界初の試みである。
また人間が踏むと発電する「発電床」も実証実験が行われた。渋谷のハチ公前広場では、平日70〜90万人という通行量があるが、ここに発電床が設置され、その電力がクリスマス用イルミネーションに使われた。発電床はすでに商業施設や水族館などで、人が歩くと床の誘導灯が光ったり、装飾灯が輝くイルミネーションで実用化されている。
音力発電の青年社長・速水浩平氏は、あるインタビューで次のような夢を語っている。
「また、少し夢のような話をすると、大きなビルの床や階段、壁を全て発電できるようにし、そのビル自体を「発電所」のように使えるようにしたり、それを公園、住宅等にまで広げたりしながら、街全体を「発電タウン」にできれば素晴らしいですね」
こんな街ができたら、石油輸入も、原発も不要で、クリーンなエネルギーを地産地消する社会が実現することになる。
■8.日本文明の強みが息づいている
以上、日本が世界をリードする新エネルギー開発の状況を紹介したが、これらに共通する点がいくつかある。
第1は、渓流や海流など、自然のエネルギーをうまく取り出して利用しようという考え方で、いかにも自然と共生してきた日本文明らしい発想である。
第2は、温泉の排温水、工場の排熱、車の振動など、ムダに捨てているエネルギーをうまく使おうというアプローチで、これも資源を活用せずに捨てるのは「もったいない」とする日本文明の伝統である。
第3は、国家や世界のための志を持った人々が、主体的に夢と希望を描いて、粘り強くその実現のために努力している点。江戸日本の高度な産業経済の発展、明治以降の急速な近代化、戦後の奇跡的な復興と高度成長は、こうした国民性によって実現したものである。
今回紹介した事例からは、以上の日本文明の強みが今も脈々と息づいている様が窺えた。国民の間に、こういう気概がある限り、エネルギー自立という夢と希望も、そう遠くない将来に実現するのではないか。
(文責:伊勢雅臣)