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日本経済は中国に依存してない(国際派日本人養成講座から)

注)以下はメールマガジン「国際派日本人養成講座」からの引用です。
興味のある方は、メールマガジンを受信すれば、定期的に読むことが出来ます。

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『日本経済は中国に依存してない』

中国への輸出はGDP(国内総生産)比3%以下、投資は1%強でしかない。

■1.『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!』

『中国がなくても、日本経済はまったく心配ない!』という本がよく売れている。
「エッ!?」と思わせるタイトルだが、それだけ「日本経済は中国の成長に依存している」という先入観が、日本中に浸透しているからだろう。

著者の三橋貴明氏は、経済分野での偏向報道・自虐的報道を定量的データで喝破する優れた経済評論家であり、本誌にもすでに2度ほど登場いただいている。

今回の著書でも、「中国は世界一の金持ち国」「中国はアメリカを抜いて世界一の経済大国になる」など、一部マスコミが垂れ流しているプロパガンダを喝破している。
「成長する中国と衰退する日本」という虚像に洗脳されて、いたずらに中国に平身低頭したり、我が国の未来を悲観する事は、国家の前途を誤らせる。

三橋氏の著書は、これらのプロパガンダの嘘を、データを通じて明らかにしてくれている。グラフも多用され、一般国民にも分かり易く説明されているので、国際経済分野の基本図書としてもお勧めしたい本である。本稿では、そのさわりを紹介させていただく。


■2.対中輸出はGDPの2.79%に過ぎない

まずは「日本経済は中国に依存している」という事が事実かどうか見てみよ
う。「依存」の定義として、以下の3つが考えられる。

1) 中国への輸出がなくなったら、日本経済は大変なことになる。
2) 中国からの輸入がなくなったら、日本経済は大きな打撃を受ける。
3) 中国への膨大な投資がパーになると、大損害だ。

まず中国への輸出だが、平成21(2009)年度における中国・香港向けの輸出額は約1415億ドル。これだけみるとずいぶん大きいようだが、同年の日本のGDP(国内総生産)は約5兆ドルなので、そのわずか2.79%でしかない。

本講座なりに例えれば、年に500万円の利益を上げている「日の本株式会社」があるとする。その顧客の一つが倒産して、14万円の売上がなくなったのと同じである。多少の痛手ではあるにしても、致命傷というほどのこ
とはない。

しかも日本企業が中国に部品を輸出して、現地子会社で組立をし、完成品を日本に逆輸入したり、欧米などに輸出したりする割合もかなりあるので、これらは中国がなくなっても、ベトナムその他で十分、代替が効く。
とすると、実際の損失はもっと小さい。

また、2、3%のGDP減少は、それほど珍しいことではない。平成12(2000)年を基点として、平成22年(2010)年までの10年間で、GDP(名目USドルベース)が対前年で4%以上下がった年が3度もあった。


■3.中国からの輸入は2.44%、しかも代替が効く品が多い。

輸入はどうか。中国・香港からの輸入は、同じく平成21(2009)年度で約1236億ドル、GDPの比率にして2.44%である。

しかも中国からの輸入は、農産物や安価な工業製品が多い。農産物なら多少値段が高くとも、高品質で安心できる国内産で代替できる。その分、国内農家が潤う。

また安価な工業製品も、中国製でなければダメという製品はほどんどないだろう。国内産の高級品、あるいは東南アジア製などで代替可能である。

尖閣諸島での中国漁船衝突事件で、レア・アースの輸出制限が大きな問題となったが、三橋氏によれば、そもそも90年代にレア・アースはアメリカや南米、オーストラリアなどで普通に産出されていた。その後、中国がダンピング攻勢をしかけたので、これらの国の鉱山が閉鎖に追い込まれたという。中国がレア・アースを売らないというなら、再び、これらの国から買えばよいだけだ。

ということで、中国が無くなっても、GDPへの影響は2.44%の数分の一という規模であろう。「日の本株式会社」の例で言えば、これは年12万円ほどの仕入れ先が一つなくなったが、その相当部分は他の仕入れ先に振り
替えればよい、という話である。


■4.対中投資はGDPの1%強

もう一つは対中投資である。「日本から中国への膨大な投資がパーとなったら大損害だ」と言われるが、本当にそうか。

平成21(2009)年度末での対外直接投資残高で見ると、中国向けは550億ドル。GDPに対しては1%強。日本の対外投資残高は7404億ドルで、そのうちの7.4%に過ぎない。これは対米の四分の一、対西欧の三分の一の規模である。

「日の本株式会社」で例えれば、町内のあちこちに74万円ほど貸し付けているが、そのうち隣の「チャイナ株式会社」に貸していた5万円が焦げついた、という事である。経営が傾くほどのことではない。

中国政府がもし日本の資産を接収するような暴挙をしたら、日本はGDPの
1%強を失うだけだが、その瞬間にすべての外国からの対中投資はストップするだろう。外国からの投資を接収してしまうような無法国家に投資しつづける愚かな国や企業があるはずがない。すでに投資した分も回収にかかる。

中国が海外から受け入れている直接投資残高は、平成20(2008)年度末で3781億ドル。日本の対中投資の6.8倍もの規模である。海外からの投資がストップしたら困るのは「日の本株式会社」よりも「チャイナ株式会社」なのである。


■5.外貨準備高世界一は「世界一の金持ち」?

中国の外貨準備高が204兆円(2009年末)となり、日本の89兆円の2倍以上となった。ここから「中国は世界一の金持ちになった」と言う見方が
喧伝されている。これも真実にほど遠い誇大妄想的な見方でしかない。

三橋氏は、「国家の金持ち度」を計る指標としては、対外純資産か、せめて対外資産の総額で比較しなければならない、と指摘する。対外資産は、外国への投資も含めて、その国が海外で所有している資産の総額であり、外貨準備高はその一部に過ぎない。

対外資産で見ると、日本の対外資産は562兆円で、中国の294兆円の2倍近い。外貨は少ないが、アメリカや欧州などに投資している額が大きい。

純資産とは、その国が海外でもっている資産の総額から、他国が国内に持っている資産を引いた額である。これがプラスだと、外部に貸したり、出資したりしている額の方が多い金持ちである、ということになる。

この純資産で見ると、日本は249兆円で、中国の129兆円のやはり2倍近い。日本の純資産は20年近く世界一を続けている。逆に中国は外貨準備高は204兆円もあるのに、純資産が129兆円ということは、その差額、75兆円は海外から投資を受けた分ということになる。

そもそも外貨準備高は多ければ良いというものではない。町内の会社間での売り買いで考えれば、チャイナ株式会社は一方的に売ってばかりいて、現金を貯め込んでいるが、町内には、その分赤字で困っている企業がある。こういうアンバランスがあっては、狭い町内でうまくやっていけるはずがない。

「日の本株式会社」は現金残高はそこそこだが、資産のかなりの部分
を、他社への貸し付けや出資に使っている。言わば、「日の本株式会社」は資産家だが、他商店との売り買いのバランスをとり、貸し付けや出資でよく他社を助けている。
「チャイナ株式会社」が売るばかりで現金を貯め込む守銭奴であるのに対し、「日の本株式会社」は町内で面倒見の良い長者といった存在である。


■6.中国は「世界の貸し工場」

中国は外貨準備高こそ204兆円と世界一だが、それ以外の純資産ではマイナス75兆円である。それに比べて、日本は外貨準備高こそ89兆円だが、それ以外の資産がプラス473兆円もある。この数字に、両国の国際経済における対照的な姿が現れている。

日本もかつては輸出一点張りで、膨大な外貨を貯め込んでいたが、海外からの批判を受け、変動相場制に移行して大幅に円を切り上げ、また輸出を現地生産に切り替えていった。

変動相場制により、円が高くなって、貿易のバランスがとれ、外貨準備高が調整される。また海外生産が増えることによって、輸出が減り、現地の
雇用確保に貢献した。海外での総資産が多いのは、こうした投資の結果である。
こうしたことができるのも、家電や自動車その他、独自の技術を持っていればこそである。

中国は日本と同じ道を歩めるのだろうか? 外貨準備高以外の純資産がマイナス75兆円というのは、先進国からの投資を多く受け入れているからである。

実際に中国の輸出に占める外資系の割合は2008年度で55.4%もある。
中国の輸出の過半は、日本企業や欧米企業が中国に投資して、工場を作り、そこから日本や欧米に輸出しているのである。本講座なりに形容すれば、中国は「世界の工場」というより、「世界の貸し工場」なのだ。

「貸し工場」としてやっていけるのは、人件費が安いからだ。それも、人民元を安いレベルでドルに固定しているからで、変動相場制に移行して元が上がれば、「貸し工場」のコストが高くなり、日系・欧米系企業はさっさと他の「貸し工場」に移ってしまうだろう。

中国が「貸し工場」を続けるには、欧米の非難を浴びつつも、元安を続け、
「外貨準備高世界一」の袋小路に留まっているしかない。これが「世界一の金持ち国」の実像である。


■7.「中国は世界一の経済大国になる}!?

「中国は10年後にはGDPで米国を抜いて、世界一の経済大国になる」という予測がある。過去10年の平均成長率(中国10.5%、米国1.7%)をそのまま延長すると、2022年に米中のGDPは逆転するという。

しかし中国が今までと同様の経済成長を続けるには、大きな前提条件が必要となる。まず前節で述べたように、中国はコストアップを避けるために、元安政策を続けなくてはならないが、すでに現時点でも貿易赤字を抱える米国が痛烈に批判をしている。あと10年も元安を続け、ドルをさらに貯め続けることができるだろうか。

また外資系企業にも、今までと同様に対中投資を続けて貰わねばならない。そのためには低賃金を続け、また無尽蔵に労働力供給を続けなければならない。

しかし、三橋氏は中国の労働力人口が2013年にもピークを迎え、その後は減少していく点を指摘している。人口抑制のための一人っ子政策により、中国は世界最速のペースで高齢化しているからである。

労働力供給が頭打ちになれば、かならず賃金は上昇する。その分、低コストの貸し工場としての魅力は薄れ、海外からの投資は減り、従来ペースの成長はできなくなる。すなわち「貸し工場」で外資企業頼りの成長モデルでは、このままあと10年も成長が続くはずがない。


■8.中国経済の実像

残された道は、国民が豊かになって、国内消費が伸び、それが投資と国内生産を押し上げて、さらに国民を豊かにするという善循環を実現していくことである。

それこそが日本が高度成長を成し遂げたプロセスであった。三橋氏は「日本経済は輸出依存で成長した」とする見方をデータで否定している。
高度成長期を通じて、輸出はGDPの1割程度であり、民間最終消費は常に6割の水準にあった。池田内閣の「所得倍増政策」により、民間消費と投資が両輪となって長期間の健全な成長が維持できたのである。

しかし、現在の中国経済は高度成長を迎える前の日本経済とは、似ても似つかぬ実態となっている。

まず中国の輸出のDGP比率は、2009年で26%、ピークの2006年では39%もあった。すなわち、輸出依存度で言えば、日本の2.5倍から4倍という「超輸出依存型」である。

また個人消費は2000年まではGDPの45%ともともと低い段階であったのが、2009年には35%まで下がってしまった。逆に投資は2000年が34%で、2009年には46%にまで上昇した。政府の公共投資と不動産バブルの影響である。

民間最終消費が異常に低いのは、社会に構造的な問題があるからだ。

まず年金制度が未成熟である。中国の年金は「養老保険」と呼ばれているが、その加入率は、3億人を超える都市部労働者で半分強、4億7千万人の農村労働者では1割程度しかない。老後のため、せっせと自分で貯金するしかない。

医療保険も未整備である。中国で所得最高水準の上海での可処分所得は月2万円程度だが、病院の平均医療費は診療1回当たり約6千円。一回、医者にかかると、月収の三分の一近くがふっとぶ。

さらに中国国内の所得格差は凄まじい。人口の上位10%が国民全体の所得の50%を占めている。日本では20%である。一部の突出した富裕層は、ベンツを買い、海外旅行を楽しんでいるが、下層階級は毎日の生活で手一杯である。日本のように膨大な中間層が、カー、クーラー、カラーテレビを買い求める、という国民全体で豊かになっていく、という健全な成長ではない。

こうした現在の状況を見れば、個人消費と投資が両輪となった健全な日本型高度成長モデルに転換するのは、至難の業であろう。そして中国は発展途上国のまま、史上最速で高齢化社会を迎える。

これが「日本を抜いて世界第2位の経済大国」「外貨準備世界一の金持ち国」そして「いずれはアメリカを抜いて世界一の経済大国へ」と喧伝され
ている中国の実像である。

(文責:伊勢雅臣)

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