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「日本」ブランドを売る広報外交(国際派日本人養成講座から)

注)以下はメールマガジン「国際派日本人養成講座」からの引用です。
興味のある方は、メールマガジンを受信すれば、定期的に読むことが出来ます。


■■ Japan On the Globe(618) ■■ 国際派日本人養成講座 ■■

The Globe Now: 「日本」ブランドを売る広報外交

国際社会では各国がそれぞれの「国家」ブランドを戦略的に売り込んでいる。

■1.国家ブランド戦略「かっこいいイギリス」■

 あなたは英国についてどんなイメージをお持ちだろうか?
「保守的な英国紳士とストばかりしている労働者からなる停滞
した階級社会」か? あるいは「ビートルズやサッカーのベッ
カムを生んだ革新的でダイナミックな国」か。

 現在の多くの日本人は、後者のイメージを持っているだろう。
しかし、わずか20年ほど前には前者のイメージの方が支配的
だった。国家のイメージは劇的に変わりうるのである。

 英国のイメージ転換は、97年に首相の座についた44歳の若
き労働党党首トニー・ブレアが強力に推し進めた国家ブランド
戦略の賜物である。そのキャッチフレーズが「クール・ブリタ
ニア(かっこいいイギリス)」だった。

 ブレア首相のブレーンとして国家ブランド戦略の理論的支柱
となったのが、20代前半の研究者マーク・レナードである。
レナードは、海外において「陰鬱な気候、まずい料理、冷淡な
人々という、手垢にまみれたイギリスのステレオタイプ・イメ
ージが依然支配的である」と指摘し、英国民自身が自らに誇り
を持てず、企業は「イギリス」という看板をビジネスにマイナ
スと考えていると述べた。

 しかし、「実はイギリスは革新的なアイデア、商品、サービ
ス、国民、文化のハブ(中心)となっている国家であり、われ
われの歴史は追従型ではない創造性にあふれている」とレナー
ドは説き、これに従ってブレア首相は英国ブランドを確立する
ため、ポップ・カルチャーやファッション、スポーツなどの分
野での人材育成、新観光名所の整備、都市の再開発などを進め
ていった。[1,p62]

 こうした戦略的な努力により、世界における英国のイメージ
は変貌を遂げたのである。

■2.パブリック・ディプロマシー(広報外交)■

 企業が市場で自社のブランドを売り込むように、国家も自国
のイメージを国際社会の中で売り込む。これがパブリック・ディ
プロマシーと呼ばれる活動である。ここでは「広報外交」と訳
しておこう。

 たとえばイギリスはその国家ブランドにより、海外から多く
の観光客を集め、また2012年のロンドン・オリンピック招致に
も成功している。アメリカとともにイラク派兵も積極的に行っ
てきたが、アメリカとは違って「軍事的に強硬な国」というマ
イナス・イメージは希薄である。

 国際世論が各国政府を動かし、また国際市場で各国企業が競
争する現代においては、それぞれの国が国際社会に持つ「ブラ
ンド・イメージ」が、きわめて重要になってきている。そのた
めに各国が戦略的に公報外交を展開する時代になったのである。

■3.世界で最も影響力のあるBBCワールドサービス■

 イギリスの広報外交の内容をもう少し詳しく見てみよう。そ
の特徴としては国際放送と国際文化交流の2つの柱がある。

 英国は国際放送分野では、BBC(英国放送協会)ワールド
サービスという世界で最も影響力のある国際放送局を持ってい
る。世界42の言語で1億2千万人の視聴者にニュースや解説
を届けている。

 BBC本体のテレビ、ラジオ放送は受信料でまかなわれてい
るが、ワールドサービスは政府の補助金によって運営されてい
る。しかし報道の自由が政府から保障され、「正確で、偏見の
ない、独立したニュース報道機関」として、国際的な定評を受
けている。

 それでも、その目的は「国内や海外で発生した事態について、
バランスのとれたイギリスの見方を伝え、イギリスの暮らし、
組織、業績について正確かつ効果的に表象する」ことを目的と
しており、完全に無国籍、中立の立場に立っているわけではな
い。BBCワールドサービスを見聞きしているうちに、知らず
知らずのうちに、視聴者はイギリスの見方を学び、またイギリ
スの社会や文化について親近感を持つような報道がされている
のである。

■4.愛・地球博で日本の市民層をターゲットに■

 広報外交のもう一つの柱が国際文化交流だが、これについて
もイギリスは戦略的に自国のブランドを確立しようと努力して
いる。その一例を、平成17(2005)年の愛知万博に見てみよう。

 この「愛・地球博」への参加を、英国政府は「日本の市民層
をターゲットにした広報外交活動」と規定し、日本におけるイ
ギリスの政治的、経済的、文化的影響力を土台から補強しよう
と意図した。

 参加準備のプロジェクト・チームの責任者には、英国外務省
の広報外交部長が就任し、英国館は、日本の市民に向けて、イ
ギリスの革新性や最先端技術、環境保全努力などを発信するこ
とを目指した。こうして企画された英国館を、愛・地球博の公
式サイトは次のように紹介している。

 パビリオンに入ると、まず英国の空をイメージした作品
や、鳥の声などで田園風景を疑似体験できます。さらに進
むと、7つの展示が点在するイノベーション・ゾーンが現
れます。自然の中にはさまざまな科学のヒントが隠されて
いて、その仕組みを研究することによって革新的なアイデ
アや技術が生まれました。ヤモリが天井に貼りつく仕組み
から強力な接着テープを開発したり、サメの皮から発想さ
れたより速く泳ぐためのスイムスーツ、コウモリの超音波
を視覚障害者に役立たせるなど、英国で研究が進められて
いる数々の発明のインタラクティブなデモンストレーショ
ンをここで体験できます。

 英国館は予想を上回る好評を博した。当初設定した目標入場
者数は150万人だったが、その倍以上の301万人が訪れた。
その中には1768名もの世界の要人も含まれていた。

 日本のメディアでも好意的に報道され、301の記事が新聞
・雑誌に掲載され、50回のテレビ報道がなされた。これらを
広告費用として金額評価すると300万ポンド(約6.6億円)
の価値があり、これだけで出展費用400万ポンド(約8.8
億円)の75%を回収できたことになる。

 英国館入場者に対して行われたアンケート調査では、63%
が英国館を外国館のベスト5に入る、と答え、また入場者の7
割は、英国イメージが「停滞」「保守」から「革新」「ダイナ
ミック」「モダン」に変化したと回答している。

 こうした地道な努力の積み重ねによって、英国のイメージは
以前と大きく変わっていったのである。

■5.サムライたちの広報外交■

 このように万国博覧会は広報外交においても重要な舞台であ
るのだが、この点を我が先人たちは幕末の開国直後に即座に見
抜いていた。

 明治維新に先立つこと1年前の1867年に開かれたパリ万博で
は薩摩藩が「日本薩摩太守政府」の名で、あたかも独立国であ
るかのような体裁で参加した。そのため幕府の出展では「日本
大君政府」と名乗らざるを得なかった。薩摩藩と幕府の国内に
おける政権争いが、広報外交での競争にも発展したのである。
[a]

 明治維新の後も、国際社会に乗り出したばかりの日本は、独
立を維持し、近代国家の仲間入りするために、必死の努力を続
けた。その過程で広報外交は重要な武器であった。

 日清戦争当時、第二次伊藤博文内閣で書記官長(現在の内閣
官房長官)をつとめた伊東巳代治(みよじ)は、英国の通信社
ロイターに多額の資金を送って(悪く言えば「買収」して)、
国際世論を日本に有利に導かせた。[b]

 日露戦争では、金子堅太郎がハーバード大学仕込みの英語を
駆使して、全米各地で講演会を開き、晩餐会でスピーチをし、
新聞や雑誌に寄稿して、八面六臂の広報外交を展開した。その
ために米国の世論は、野蛮な侵略国ロシアに立ち向かう新興文
明国日本、というイメージを持った。[c]

 また戦地においては日本軍は欧米の新聞記者たちを温かく迎
え、個人的な親交を築いた。記者たちが多分に日本軍の視点か
ら見た記事を書いたことは想像に難くない。アメリカのシカゴ
・ニュースの記者スタンレー・ウォッシュバンなどは、乃木大
将を自分の父親のように敬愛し、帰国してから"Father Nogi"
という本を出版したほどである。[d]

 こうした日本の広報外交が奏功して、国際世論は親日的とな
り、これをテコに日銀副総裁・高橋是清は欧米で外債を発行し
て、膨大な戦費を調達することができたのである。[e]

■6.大正、昭和の広報外交■

 日清・日露戦争、第一次大戦の勝利を通じて、我が国は有色
人種でただ一つの強国という地位を獲得した。この特異な立場
から、パリ講和会議での国際連盟創設の議論において人種平等
条項を提案したことは、米国の黒人も含め、差別されている世
界の有色人種に希望を与え、かつ日本を有色人種のオピニオン
・リーダーと位置づけた点で、きわめて強力な広報外交であっ
た。[f,g]

 しかし日英同盟が解消され、英米との対立が深まると、国際
的に定評を得ている英米マスコミの後ろ盾をなくしたため、効
果的な広報外交はむつかしくなった。

 たとえば、日本政府はその後も人種平等政策を国策とし、ナ
チスや欧米社会からも忌避されていたユダヤ人難民に、満洲や
上海などで安住の地を与えたが、これなども広報外交としてもっ
と活用されるべき政策であった。これらの実績を効果的にアピ
ールしていれば、日本は世界のユダヤ人の支持を受けて、ナチ
スとは異なる人道主義の国として認識され、その後の英米との
対立もだいぶ様相が異なったはずである。

 また昭和18(1943)年、大東亜戦争の最中に満洲国、中華民
国、タイ、フィリピン、ビルマ、自由インド仮政府の代表者が
東京に集まり、大東亜会議が開かれた。この会議で採択された
「大東亜共同宣言」は、アジアの有色人種に「自主独立」と
「万邦共栄」を呼びかけたもので、独立を渇望するアジア各民
族に深い影響を与えた。しかし、これも時遅しで、戦況を好転
させるには至らなかった。

 戦後、昭和39(1964)年に開催された東京オリンピックは、
日本が戦禍から完全に立ち直り、国際社会に復帰したことを世
界に告げる一大国家イベントであった[j]。また、昭和45
(1970)年の大阪万博は万博史上最多の64百万人の入場者数を
集め、奇跡的な高度成長によって、日本が世界有数の経済大国
になったことを国内外に示した。

 大東亜戦争前後の難しい時期はあったが、総じて我が国は国
際的な舞台において、真剣に広報外交に取り組んできたと言え
る。それは近代国際社会の荒海で生き延びるための必須の手段
であった。

■7.世界でもトップレベルの日本の評判■

 こうした広報外交努力の積み重ねもあって、現在の我が国の
国際社会におけるイメージは極めて良好である。BBC他は主
要12カ国それぞれについて「世界の中での影響が肯定的なも
のかどうか」を問う国際世論調査を実施し、その結果を2007(
平成19)年3月に公表した。

 調査は27カ国の2万8000人に対して行われ、総平均
(自国への評価を除く)で肯定的評価の率が高かったのは、カ
ナダ(54%)、日本(54%)、EU(53%)などであっ
た。

 日本への肯定的評価を国別で見ると、アメリカ(66%)、
ブラジル(64%)、イギリス(63%)、トルコ(51%)、
ナイジェリア(65%)、インドネシア(84%)、フィリピ
ン(70%)、オーストラリア(55%)など世界の全地域で
高い評価を受けている。実に27カ国中、25カ国で肯定的評
価が否定的評価を上回るという優等生ぶりである。

 例外の2カ国は、中国(肯定的18%、否定的63%)、韓
国(肯定的31%、否定的58%)と否定的評価が突出してお
り、この2カ国における意図的な反日教育、反日報道の影響で
あると思われる。

 日本国内では中韓の反日的態度から、日本は世界で評価され
ていないとか、アジアで警戒されているなどという先入観を持
つ人がいるが、事実は中韓の反日姿勢の方が世界でも異常だと
いうことである。

 両国とも日本から膨大な経済援助を貰いながら、それぞれの
政権が「反日」を存立基盤にしている、という歪んだ国内事情
がある[k,l]。言わば、被害妄想の隣人に憎まれているような
もので、正常な隣人たちとはまた別の付き合い方が必要である。

■8.個人的つきあいから生まれる親日イメージ■

 中国社会科学院研究所が2006年に実施した世論調査でも、日
本に対して「親近感を持っていない、あまり持っていない」が
52.9%、「非常に親近感あり、親近感あり」が7.5%、
「普通」が37.6%と同様の結果が得られている。[1,p238]

「親近感を持っていない」理由として挙げられているのは、
「日本は中国侵略を反省していない」が断然トップで、まさに
反日教育の影響が如実に窺われる。

 逆に注目すべきは、少数派の「親近感を持つ」方の理由とし
て「両国友好の歴史が長い」「日本の経済が発展している」と
並んで、「日本留学・訪問の経験がある」「日本人の友達がい
る」「家族や友達が日本にいる」などという理由が挙げられて
いる点だ。

 日本の社会は、親切、礼儀正しさという点で国際水準をはる
かに超えており、これは日本を訪問する外国客や留学生の多く
が一様に感ずる所である[m]。また海外在住の日本人も、個人
的な礼儀正しさ、親切さで、現地の人々に肯定的イメージを与
えているケースは良く聞く。

 海外に住む日本人はもちろんの事だが、国内にいて海外から
の観光客、ビジネス客、留学生などに日本人らしい親切さ、礼
儀正しさで接し、彼らに良い日本のイメージを持ってもらうこ
とは、広報外交の重要な柱であり、またその良いイメージが我
我の子孫の財産になる。こうした振る舞いを心がける人こそ、
「国際派日本人」と呼びたいものである。
(文責:伊勢雅臣)
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