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ペティナイフ

今日は帰りに一杯引っかけるか、まじめに帰るか逡巡したあげく後者を選び、昨夜遅くに見た剣客総菜の素材であった鰺の開きを3枚買って帰った。

私のような人間は、こういったものを入手すると、食事することなど考えなくなってしまう。

日曜に作ったフォンドボー風の鍋の中に何か肉野菜を追加しようかとも思ったが、面倒くさくなって、さっさと鰺を焼いてしまった。

電磁式になって以来、てっきゅうも使えないので渋々グリルで焼いている。
鰺を二枚入れて、今回は少々水を多めにしてしまった。

水を出すのもこれまた面倒なのでそのままにしたが、この方式は、焼くというより蒸す効果が強いため、中まで火は通るが、身が柔らかく仕上がるので実は余り好きではない。


もう10年以上前になるが、私よりふた回り以上年上のMさんという上司がいた。
Mさんは、釣りも好きだったらしいが、ある程度の年齢になるとゴルフで忙しくなり、その頃はすでに私たち若い者の釣ってくる魚を食べる専門になっていた。

どういういきさつだったかは忘れたが、ある日会社で小物の魚を多数さばくことになり、料理番長(笑)の私がそれを担当した。
途中、Mさんがその様子を覗きにきたMさんが、
「ほう、割り箸でやるかと思ったがまじめにやってるな」
と、言った。

小物の魚は、口から割り箸を突っ込んで、ぐるりと回して内臓を引っこ抜く方法がある。
が、内臓を潰すと魚に匂いが移りそうで、それがいやな私は愛用のペティナイフで一匹ずつ腹からさばいていた。

釣り人は料理の出来る人も多い。
射止めた奥さんが魚をおろせるとは限らないし、いつもいつも魚の処理をするのはイヤになることもあるだろう。


また別の日に、もらったアメゴを焼いて一献傾けることとなった。
またしても料理役になった私の所にMさんが来て、
「おい、焼き網無いだろ。グリルなら水は入れないくらいにしろよ」
と、言った。



数年後、Mさんは定年より少し早めに退職した。
宴席の幹事は私だった。
参加者も多かったので、私は特権を利用して、かなり高価だったある包丁を購入した。
「研ぎなおしの回数が少なくて済む」
という、高級クラスのもので、柳刃はあまりにも高かったので、ペティナイフしか買えなかった。

「切れるものは・・・」
と世間的には言うが、Mさんはいきさつを話すと喜んでくれた。


その後、何度かお会いする機会はあったが、ここのところはご無沙汰している。
今度、何かの折りに会うことが出来れば、
「あれ、どうですか。使ってなかったら私にください(笑)」
と言ってみたい気がする。

そんなことを思いながら、水が無くなるまで焼いた三枚目の鰺をグリルから取り出した。

書いた人 nippon | comments(0) | - |




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